北九州の台所として栄える「旦過市場」で4月20日に大きな火災が起こった。
https://mainichi.jp/articles/20220419/k00/00m/040/282000c
引用/毎日新聞による上空写真
この場所は私にとって特別に思い入れのある場所であり、大学院の修了設計のテーマとなっている。
初めて訪れた時から、この市場の持つ空気感に魅了された。
当時、大規模な再開発の話が上がり、その案を見て愕然とした記憶がある。
河川に迫り出した魅力的な建築(違法ではあるが)も全て撤去された上で
スーパーマーケットのような「整えられすぎる市場」に加えて「高層の居住空間」が計画されていた。
いわゆるザ・再開発プランであり、闇市から始まった100年の文脈を
完全にリセットするかのような計画ではないかと考えてしまう。
旦過市場の魅力の一つである雑然さは、発生して100年以上の時間の経過によってもたらされている。
現在の市場の姿は、限られた敷地いっぱいに建物が建てられ、
それでも面積が必要なため鉛直方向に増改築が繰り返されて今に至る。
パッチワークのような素材の変化、トタン屋根の重なりによって混沌さが現れている。
大学院当時、増改築が繰り返されてきたこの市場は当然だが既存図もなく、まずは既存図の作成を始める必要があった。
昼夜問わず3ヶ月間旦過市場に入り浸り、営業時間に邪魔をするわけにはいけないので、
店舗のファサードは夜に市場まで行き徹夜で実測を行なったことは今ではいい思い出となっている。
誰よりもこの市場のことに詳しくなりたい気持ちで挑み、
営業者の方々にご協力いただいて、ほぼ全ての店舗の商品棚のレイアウトを含めた実測を行わせてもらった。
1階は市場としてとても賑わっているが、
2階は使われていた痕跡が残る住居のまま、もしくは店舗の倉庫として活用されている裏の顔を持つ。
賑わいの裏に隠された生活の記憶も私にとってはこの場所の魅力の一つとなっている。
その市場で、今回大きな火災が起こったことを知り、
ニュースで音声入りの動画を見た時はとてもいたたまれない気持ちになった。
幸いなことに怪我をされた人はいないようで安堵したが、40店舗、面積にして1600㎡が焼失してしまった。
北九州にとどまらず、たくさんの人々に愛される集合体としての旦過市場が、
日常の活気ある市場の姿をいち早く取り戻せることを願ってやまない。
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